Code for History

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自動運転では、Googleのスピード感だけでなく自動車会社のスピード感も考える必要がある

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につけていただいたブクマコメントで、いくつか唸らせられたのにお答えしたいと思います。

ZENRINを廃した新Google Mapsは自動運転とは基本的に関係がない - ちずぶらりHackers

プローブによって生成した地図の精度は低いかもしれないけど、RTKのような高精度な測位システムが出てきたら解析能力を持っているGoogleにあっという間に抜かれてしまう。確かにコケたGoogleサービスは多いけど、要警戒。

2019/03/25 07:57
b.hatena.ne.jp

これに関しては完全におっしゃる通りで、今の携帯電話などのプローブ位置情報精度がいくら積み重なっても自動運転可能な精度にはなりませんが、プローブの位置情報側に革新があり、多くの携帯がRTK対応なんて事になってくると話は違ってきます。
そんな自体が何年後、十何年後に来るのかわかりませんが、そんな自体になれば、特に自動運転向けに作ったわけではない基盤が「結果的に」自動運転にも使えるようになる可能性もゼロではありません。
そこまでは否定していないつもりです。

また、RTKが世の中にあふれる「かもしれない」十何年後かを見据えて、Googleが最初から自動運転にも使えるような仕掛けをプローブ生成地図の中に埋め込んでいる可能性も、これまた「ゼロではありません」。
その意味では、ブコメで誰かがおっしゃっていた、「Googleの中の人でもないのに何がわかるのだ」という指摘はごもっともです。
私が論証したのは今新Google Mapsが使っている技術が、今のトレンドの自動運転技術にはリンクしないということであって、Googleが「今は実現不可能でも、十何年後にはできるかもしれない、まだ『誰も知らない自動運転の仕組み』の秘密の種を新Google Mapsの中に撒いている」可能性については、Googleの中の人でもなければ「撒いている」とも「撒いていない」とも断言できません。

ZENRINを廃した新Google Mapsは自動運転とは基本的に関係がない - ちずぶらりHackers

かつて 3D ゲームにおいてコリジョンマップと景観モデルは別だった。しかし今やハードとゲームエンジンの性能向上によって景観モデルはコリジョンを兼ねるようになった。Google もそういう方向に未来を考えてるのかもね

2019/03/25 09:22
b.hatena.ne.jp

これは喩え方が面白いなと思って唸らされましたが、確かに今の技術の限界(ネットワーク速度やストレージ容量の限界等)では、ナビ、表示用の地図と自動運転用の地図は分けて作成されるのが合理的ですが、将来通信が5Gだ6Gだとなり、ストレージにも革新が起きて状況が変わってくれば、表示用の地図と自動運転用の地図が共通になる未来も考えられないわけではないと思います。
そしてこれも同様、Googleが十何年後のネットワーク環境等を見据えて、将来の新型自動運転技術の種を新Google Mapsの中に撒いている可能性は、中の人以外の誰にも、否定も肯定もできません。

が、それでも、100%の否定はできませんが、私は「新Google Mapsに将来の自動運転につながると現時点でGoogleが考えている技術要素は入っていない」蓋然性が高いと思っています。
それは、自動運転を実現するには、Googleだけで完結する話ではなく、Googleと組んでいる自動車会社のスピード感も絡んでくるからです。

皆さんは、5年後の未来って想像できますでしょうか。
今年大学に入学した子が既に就職しており、明日発表される新元号ももはや5年目になって目新しくなくなっていて、東京オリンピックももう終わってむしろ次の話題は大阪万博になっているような未来です。
はるか先に思えますが、自動車会社の人々にとっては「5年後」は「現在」です。
新しい自動車モデルが発売されるとなると、その自動車に搭載される「ナビ」等の部品は、5年前には企画がスタートし、4〜3年前には使う技術が決定しインタフェースなどの詳細を2年程度かけて詰め、2〜1年前に実装に入りいくつかのプロトタイプで実走テストを繰り返し、実際に発売された後は10年程度は継続して動作することを保証する事が必要とされます。
つまり、自動車会社にとっては、製品に使われる技術は5年後に発売されるモデルの技術であっても、現時点できちんと動作する事が保証されており、かつ15年先にも動作する事が保証されている技術である必要があるのです。

Googleはインターネットの企業で、開発サイクルなどに囚われずいつでも最新で最高の技術をパッと市場に投入し、必要なくなればパッとなくしてしまう身軽な会社ですので、みなさんGoogleの自動運転と聞いてもそのようなイメージを持ってしまっているかもしれません。
が、Googleはもう早くに自動車筐体まで自分たちで準備する形での自動運転参画は放棄していますので、自動運転に参画するには協業している自動車会社の開発サイクルも考慮しなければなりません。
たとえ自動運転機能が搭載される新車の発売が5年後だとしても、その実現に必要な機能の原理は、今この時点で確立して、自動車会社とこの技術でいく、ということが握れていないといけないのです。
「何時になるかもわからない」携帯にRTKが広まったら、5G6G通信が広まったら、動作するようになる「かもしれない」最新の自動運転技術、では自動車会社とは握れません。
インターネット上のGoogleの自社サービスのように、目処がついた、技術が完成した!すぐ投入しろ!というわけにはいかないのです。

ということなので、少なくともここ5年程度の自動運転実用化でGoogleがプレゼンスを持とうと思うと、「何時になるかわからないけれど、高性能なのができるかもしれないね」技術を追っていては完全に足がかりを失うので、Googleといえども今実現できる事、ナビ表示用地図とは別に自動運転用高精細地図を準備する形で参画するしかあり得ないと思っています。
そして、Googleといえども同種のプロジェクトをいくつも並行して走らせる余力はないと思われますので、高精細地図による自動運転技術の開発と、RTKや5G6G通信が広まって以降の全く新しい自動運転技術の開発を2列走らせるということはしないのではないかと思います。

なので、結論としては、新Google Mapsで使われているプローブ地図作成等の技術が、携帯にRTKが広まったら、5G6G通信が広まったら、というような十何年か先の?将来の変化に応じて自動運転にも絡んでくる技術になる可能性は否定できません。
しかし、今のGoogleがそこまで見込んで種を撒いている蓋然性は低い、というのが私の考えです。

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