Code for History

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Strolyでは近い将来、地図のマッピングデータライセンス帰属が問題になってくるだろう

Strolyに関して、半年1年規模で近い将来に問題になってくるのが、地図のマッピングデータ(対応点情報やPOI情報等)のライセンス帰属がどこなのか、という問題だろうと思う。
オープンデータ企業を標榜している割に、Strolyはいまだかつてマッピングデータをオープンデータにするという表明をしていないどころか、そもそもライセンスをどこが持っているのか、Strolyエディタを使ってマッピング作業をしたユーザの所有なのかそれともStrolyエディタを擁するStroly社の所有なのかという事をあいまいにしてきている。
これはStroly社が上向き成長*1している間は問題を生まなかったが、今後近い間に問題になってくる可能性がある。

Stroly社はこれまでにまず昨年1.4億を調達し、さらに今年2.5億という多額の資金を調達した...にもかかわらず、その所有する技術は、座標変換性能においても機能においても、個人のオープンソースプロジェクトに過ぎないMaplatに大きな遅れを取っている。
具体的にどのような性能、機能が劣っているかについては、Maplatが2018年11月に国土交通省主催のGeoアクティビティコンテストで最優秀賞含む三冠を達成した時の資料に詳しくまとめられているのでここでは省略する。
またStrolyは単に他プロジェクトに劣っているだけではなく、現時点で自身が実装完了している機能についても、うまく動作しないバグを抱えている。
一例として、こちらのURLを確認してみてほしい...鎌倉市由比ヶ浜付近の古地図の海岸線が見えると思うが、これをOSM地図に切り替えると、全く海岸線が一致しない*2
これは地図変換時の縮尺計算ロジックが間違っているバグである。

これらの性能機能の遅れやバグの存在について、すぐキャッチアップできるならばStrolyもなんの問題もないといえる。
が、実際には、これらの性能機能の遅れの一部は昨年1.4億調達した時点で存在したにも関わらず、それから1年経ってさらに2.5億調達した時点で全く遅れがキャッチアップできていないどころか、新たに機能対応遅れが発生しているという体たらくである。
1年で1.4億使い切ったにも関わらず*3、一切技術的遅れを取り戻せなかったどころかさらに離されたStrolyが、残り2.5億使ったからといって技術的に優位に立てるだろうか。
ましてや、Strolyにとってさらに悪い状況として、今年技術力の流出が発生したことがある...同社で唯一GISの知識を持つ技術者であった元CTOの中川氏が、共同CEOの高橋夫妻との確執の末に、今年11月退社したのである。
技術の核が存在した状態で1.4億使い切り1年かけても技術的劣勢を覆せなかったStrolyが、技術の核を失った状態で、2.5億あったところで技術的優位を得ることができるだろうか...私にはそうは思えない。
その傍証もある。
先に述べた地図変換時の縮尺計算バグ、私は2018年11月25日の時点で、中川氏退社後の技術開発リーダーである同社上田氏にバグの存在をレポートしている。
しかしこの記事を書いている2018年12月17日現在、もう大方20日が過ぎようとしているにも関わらず、いまだにバグは修正されていない。
自社の技術の心臓部分のエラーすら、まともに修正できないレベルで、Stroly社の技術はすでに失われている状態といえる。

このようにStrolyが残り2.5億で、個人プロジェクト相手にすら技術的優位を得るのは絶望的な状況である。
また、同社は1.4億を1年で使い切ったように、まだ完全に赤字体質で、売上で会社を維持していける状態ではない*4
となると、同社が経営を維持していくには何が必要か?...2年後くらいだろうか、2.5億を使い切った後に追加で投資してくれる投資元である。
もし2年後に追加の運転資金を投資してくれるところがなければ、Stroly社は完全に干上がるだろう。
しかし、個人の余暇プロジェクトにすら後れを取るStrolyに、2年後投資してくれるVCが現れるだろうか?
もちろんStroly対抗プロジェクトのMaplatの知名度がなければまた投資する元は現れるかもしれないが、2年という月日はStrolyがMaplatに対する技術優位を得るには短い年月だが、Maplatが知名度を得るには十分な年月と言っていい。
もし2年後、どこからも投資を受けられなかったら...Stroly社に見えるのは「倒産」の2文字である。

さて、当初のマッピングデータライセンスの話題に戻る。
Stroly社が順調な間は、ライセンスの問題はあいまいなままでよかった。
ライセンスの所有者がどうであれ、そのマッピングデータを使ったサービス結果は、Stroly社のサービス基盤を通じて享受できるのだから。
しかし、Stroly社の倒産が見えてくるとどうなるか?...倒産すなわち、Stroly社のサービス停止であり、マッピングデータを使ったサービスはその後受ける事ができなくなる。
そうなると、Strolyを利用しているユーザは、自分たちのマッピングデータなどを外に逃がして、Maplatのその他の手段でサービスを継続したいと思うようになるだろう。
その時に問題になるのが、マッピングデータのライセンス帰属問題である...もしマッピングデータのライセンスがStroly社にあるとされるのであれば、ユーザがいかにデータを外に逃がしたくても、ライセンス違反になるので持ち出せない!!

マッピングデータについて、Stroly社が自主的にマッピングして公開している地図のマッピングデータのライセンスは、言うまでもなくStroly社の持ち物である。
これらについては、残念ながら、もしStroly社が潰れる事があれば一緒に消滅しても仕方のないデータだと言える*5
しかし、ユーザがStrolyに対価を払ってマッピングしてもらったデータのライセンスは誰に所在するのか?
Strolyエディタを使わせてもらっただけで、マッピング自体はユーザ自身が行ったデータのライセンスは?
こののちStrolyの経営に陰りが見え始め、Maplat等にデータを移したいと考えるユーザが増え始めるにつれ、これは問題になってきそうである。
だからこそ、Strolyのユーザには、まだStrolyが元気なうちに、マッピングデータのライセンスの帰属をはっきりするよう、そして当然ユーザ側の方に取り戻すよう(あるいはオープンデータの側に)、働きかけることをお勧めしたい。
これを働きかける事は、ある種Stroly経営陣が今後の経営についてどの程度自信があるかを確かめるための試金石にもなるといえる...何故ならば、今後の経営に自信があるのならば、データの帰属がどうであろうと気に留めないだろうが、自信がなければ、自社サービスに引き止めるためライセンスを手離さないであろうからだ。
是非Strolyユーザの皆さんには、マッピングデータのライセンス帰属を明確にさせる働きかけをして欲しい、そしてライセンスを勝ち取って欲しい。

というか、Strolyが倒産しうる可能性を考慮したうえでデータのライセンス帰属をはっきりさせた方がいい、と長々論じてきたけど、そもそも経営が危険であろうがなかろうが、データのライセンス帰属をはっきりさせないこと自体がどっかおかしいんだけどな!

*1:単に成長実態はなくて金が集めるのが上手かっただけという話もあるが

*2:もし一致しているならば、バグは修正されたという事だが、この記事を書いている2018年12月17日現在、バグは修正されていない

*3:これは当初Strolyの社員数と人件費から推定した憶測だが、のちに後述する元CTOの中川氏にも裏取りしたが事実のようである。1.4億使い切ったので、新たな運転資金として2.5億調達したが、調達できなければ今年で足が出ていたようである

*4:この事は中川氏にもある程度裏を取っている

*5:本来は、Stroly自体がオープンデータ企業を標榜しているのだから、これらについても積極的にオープンデータにして、同社が潰れても社会資産として残るようになることを望みたいところだが、それは強制できない

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