Code for History

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私が語らないと歴史に残らない「位置ゲー事件簿」その1:日本位置ゲーの祖の1人、「へな」さん

日本の位置ゲーの祖は2000年、J-PhoneのJ-SkyStationと共に発表された商用の「クリックトリップ」であり、その意味では
『元祖はクリックトリップ、以上』
で終わりなのだが、クリックトリップの系譜は与えた影響は別としてその後途切れるので、今に続くインディーズから商用に移った種々の位置ゲーの祖、という意味では、「ケータイ国盗り合戦」「駅奪取」に繋がる系譜の「へな」さんの存在は外せない。

参考:日本位置ゲーの系譜(〜2009) f:id:kochizufan:20161002194319p:plain

「へな」さんは私が2002年に2ちゃんねるに立てた位置情報を活用しようスレに集まった有志の1人(スレ上では「4 ◆jphoNE.s」さん)。
私も会った事はないので正体は不明、富士通系の技術者だったという噂も。
「クリックトリップみたいなゲームを自分も作りたい」と語って、私の用意したサーバの上で、auのアンテナをユーザー間で奪い合う「auアンテナ奪うのれす」というゲームを2002年8月に作成。

ある意味当時の技術でできた「Ingress」。
奪い合う対象がポータルでなくアンテナ、チーム戦でなく個人戦、派手な世界観も演出もないし、ただひたすら奪い合うだけだけど、当時位置ゲーなんてものはJ-Phoneのクリックトリップを除いてなかったので、当然auでは初の位置ゲーで、口コミでかなりの人気に。
特に、アンテナの数なんて全国でいくらあるかなんかわからないので、どのアンテナも発見者がいるのだけど、見つけると発見者として名前が残るので遠くまで遠征して日本の端に名前を残そうとしたり、全国のアンテナの位置が黒地図上に光点として表示されるので、奪い合いの枠を超えてみんなで世界を広げていくような楽しさがあったり、絶妙なハマりポイントがあった。
突如消えるまでの10ヶ月で最終的にユニークユーザー5桁はいったのではないか。

が、2003年の5月、ある日突然のサービス消滅と共に失踪。
理由も何もかも不明だが、それで難民が発生したので、私が1ヶ月でクローンを作成して再稼働。
ソースコードもデータも引き継げなかったので、引き継いだのはゲームのアイデア潜在的ユーザ層だけだけど、2003年6月に「アンテナ奪取」(へなさん版の亜流としての『'(ダッシュ)』と、奪い合いを掛けている)としてサービスイン。
その後、J-PhoneWillcomにも対応して、マルチキャリア体制に。
位置情報を書き換えて嘘の位置情報を教えてくるユーザに対する詐称対策などの技術もこの頃に下地が出来たり。

2年弱ぐらい私の手元で運用したのだけど、仕事が忙しくなって片手間では運用できなくなったので、サービス譲渡を検討。
モバイルファクトリー開発マネージャの木村さんが手を上げてくれたので、彼にデータとコードを譲渡して、3代目の「日本縦断アンテナDASH」が2005年3月頃より開始。
彼が非常にいろいろなゲーム要素を盛り込んでくれて、ユーザ毎にポイント制でレーダ機能とか様々な機能を買える要素などもつけてくれて、ゲーム要素がますます高まった。
未確認だけど、今もまだ細々とサービス続いてるんじゃないかな? - ググったけど今はさすがに見つからなかった。
でもかなり最近まで続いていたはず、細々と続けてたというより、まだ遊んでいる人のために残してくれていたんだと思う。頭が下がる。

動画を見つけたので参考にサルベージ。

で、アンテナ奪取自体はそれ以上の展開はなかったんだけど、その後多くの影響を他の位置ゲーに残した。
まずは2005年に譲渡してしばらく位置ゲーを離れていた私が、2007年にマピオンに合流して、位置ゲーの技術ノウハウがマピオンに入ったのでケータイ国盗り合戦が成立。 マピオンは2002年よりドコモのエリア情報機能を使ってスタンプラリーを展開していて、国盗りという名前のサービスも私の入社の1年前に前身があって、サービス展開自体は古いのだけど、技術を蓄積してなかったところに、私が位置詐称対策経緯度をエリアに変える技術を持ち込んだので、それをテコにケータイ国盗り合戦を通年サービス化して現在まで継続。

また3代目アンテナDASHを運営している木村さんのいるモバイルファクトリーも、アンテナDASHのアイデアに感化されて、2011年より奪う対象を駅に変えた「駅奪取」を展開。
さらに萌え要素も絡めた「ステーションメモリーズ」も展開していて、人気を集めている。

ケータイ国盗り合戦」「駅奪取/ステーションメモリーズ」という今商用として成立している位置ゲーの複数タイトルが、元を辿れば「へな」さんのアンテナを奪い合うゲームのアイデアの、技術か企画かの差はあれほぼ直系で生まれてきている。
へなさんがいなければ、今これらのゲームはなかったか、あるいは全く違う形になっていたと言っても過言ではないでろう。
今正体がわからないのが残念だけれど、まあすごい人と言っていいと思う。

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